| その日その時でいちばん美味い蕎麦を
旨い水がある。ソバ畑もそこらじゅうにある。だが、その割に美濃・飛騨には、蕎麦通を唸らせるような旨い蕎麦屋が少ない。旨そうな店構え、たいそうな口上の蕎麦屋もほとんどはハズレだ。また岐阜市で幅を利かせる「冷やしたぬき」はソウルフードとしては素晴らしいが、あれは蕎麦の姿を借りた別の食い物と言うべきだろう(大好きなんだけれどね、笑)。
そんな中でも萬屋町 助六は、本物の蕎麦を食わせる数少ない名店のひとつだ。
たとえば素材へのこだわり。ソバの実は、時にはご主人自ら収穫期に全国を回って、出来の良いものだけを集めてくる。良心的な農家と特別に契約栽培したものも使う。春の山菜、秋のキノコは、東北や美濃・飛騨から取り寄せた天然物だ。他にも素材の目利きすべてに感心させられる。
技術も一流だ。この店の唯一の打ち手であるご主人は東西の名だたる蕎麦屋とも交流があり、常に向上心を抱いて蕎麦を打っている。きれいに手打ちされた麺の断面を見れば、それは一目瞭然。田舎蕎麦に使う挽きぐるみ粉は、毎日使う分だけを石臼挽きしている。ご主人は和食にも精通しているから、ニシンをはじめとした蕎麦ダネにも確かな技が垣間見られる。
岐阜で蕎麦の名店とされるところには、きめが粗めでいかにもソバの実を食しているといった感覚の十割蕎麦を売り物にしている場合が多い。そういう蕎麦も私は大好きだが、助六のスタイルはむしろ江戸の蕎麦に近い。くわえて京料理のような洗練も感じさせる。この店では淡い薫り、キレのよい喉越しを楽しみたい。
さて助六の蕎麦は、その時々によって見た目や味わいが微妙に異なる。原因はソバの実の産地の違いだったり、その年の出来具合の違いだったりする。同じソバの実でも11月の新ソバと9月では、いかに上手に保存しても風味が異なる。また粉の状態が良ければ十割で打つ時もある。
そう、蕎麦という料理も自然の恵みなのだ。いつも100%同じ味など出しようがない。味のレベルを少し落とせば大型店のように安定したものになろうが、それでは主人も客も納得すまい。ならばその日打てる最上の蕎麦を食わせよう。そんな心意気あふれる店だ。
もちろんどう転んでも、そこらの蕎麦屋よりは格段に旨い。
20人ちょっとしか入れないような小さな店であるから、メニューの種類は多くはない。蕎麦以外の麺類、飯類もない(代替わりする前はあったが)。ただし江戸スタイルの蕎麦屋らしく、日本酒や焼酎と、焼味噌等の酒肴はいくつか揃えてある。
その中で最初に頼むべきはやはり「ざる」だろう。「ざる」と言っても蕎麦の薫りを台無しにする海苔は乗っていない(一般には「もり」「せいろ」と呼ばれるタイプだ)からご安心を。野趣を求めるなら「田舎」も捨てがたい。メニューにはないが「おろし」の麺を田舎蕎麦に替えたものは私のお気に入りだ。温かい蕎麦では「にしん」が出色の出来。女性には「そばがき天ぷら」の人気も高い。
あとは季節ものの「山菜天ざる」「冷やかけ」「きのこ」等も外せない。唯一の甘味「そばがきぜんざい」も、中年オヤジがいい年してという恥じらいを捨てでも頼む価値がある。
価格は決してお安くはない。だが蕎麦の質を考えれば、私は高いとは思わない。冷たい蕎麦、温かい蕎麦を1品ずつ頼んで2000円前後。もしあなたが蕎麦好きなら、出費以上の幸福感に浸れることは保証しよう。
場所は関市の旧市街地、本町通り沿い。東海北陸道・関ICから、あるいは東海環状道・富加ICから、クルマで15分程度の距離にある。だいたい16時頃には店じまいだし、臨時休業がけっこう多いので、確実を求めるなら電話で営業確認した方がいい。なお店内禁煙なのでご注意を。
蕎麦通の満足度 ★★★★★
季節の恵み度 ★★★
ご主人のサッカー好き度 ★★★★
2006/11/11 佐藤ノブヲ
(2008/04/22写真一部変更・・・上2点の写真のみクリックで拡大)
 |
 店舗は2008年4月に模様替え。店舗前のアーケードも撤去し明るくなった。これまで狭く使いづらかったトイレも格段に居心地良くなっている。写真手前の小路を入ると駐車場がある。

定番の「ざる」。量は少なめなので、女性でも2枚は軽くいける。薬味はあまり使わない方が、端麗な味と薫りを楽しめる。

「ざる」より好む人も多い「田舎蕎麦」。といっても粗野なところは皆無。都会的に洗練された田舎(???)といった感じだ。薬味は山葵ではなく辛味大根、これがいい。

秋の楽しみ「きのこ蕎麦」。マイタケ、ナメコ、ショウゲンジ等々の天然きのこがたっぷりと盛られている。左党には「そばがききのこ鍋」がうれしいかも。この店の温かい蕎麦はつゆがとても薄味なので、濃いのが好きな方には向かない。
|